『モン・パリ』(1973年フランス映画)
- doulaclub
- 2021年4月4日
- 読了時間: 4分
L'événement le plus important depuis que l'homme a marché sur la Lune
パリのモンマルトルから、男性妊娠発覚ニュースが世界を駆け巡る!
カラフルでおしゃれ感覚満載のフレンチ・コメディ

『ジュニア』にさかのぼること21年前、実はフランスで「男性の妊娠」を題材にした映画が製作されていました。こちらは『ジュニア』と違ってリアルな医学的シチュエーションはなく、フランスらしいおしゃれな色彩感覚に彩られた、どちらかというとファンタジー・コメディ。
舞台はパリの下町モンマルトル。ここで美容院を経営しているイレーヌと自動車学校を経営しているイタリア人のマルコが主人公です。マルコはバツイチの41歳、二人は結婚はしていないけれど、すでに8歳になる息子がいます。
フランスでは70年代にすでにこんな「事実婚」カップルが当たり前だったようです。そしてこの二人を演じているのが、当時大物映画スターカップルとして世界中に注目されていたフランスのカトリーヌ・ドヌーブとイタリアのマルチェロ・マストロヤンニ。二人とも自国でトップに君臨する国際派スターであり、未婚のまま堂々と公の場に登場し、子どもももうけていました。ドヌーブはそのブロンドのロングへアがいかにもフランス女優らしいゴージャスなイメージで日本でも人気があり、最近では是枝裕和監督がフランスで撮った『真実』(2019)で、国民的大女優というセルフイメージが重なる役を演じ、とても70代とは思えぬ美しさと大貫禄の演技を見せました。
さて、そんな二人が『モン・パリ』で事実婚夫婦を演じたわけですから、当時はスクリーンの外での実生活をほうふつとさせるという野次馬的興味もかき立てる作品でしたが、スクリーン上では妊娠するのはマルコです。
最近体調が良くない、というマルコはイレーヌに言われてしぶしぶ医者に診てもらうと、近頃とみにでっぷりとなってきたお腹を触診した女医が「これは変だわ」と友人の専門医を紹介しますが、それがなんと産婦人科専門のショーモン教授。「専門医」に行くというマルコの言葉に、重病なのではないかと心配を募らせるイレーネは、ショーモン教授のもとに同行し、マルコの妊娠4か月を告げられます。教授は「男性の妊娠についての研究論文を完成し国際会議で発表するところだった。あなたのケースは私の理論を証明する」と言って、「中国では16世紀にすでに男性の妊娠についての文献がある」「人口食品の摂取によるホルモン異常器官の変化」「男性本能の減少」などと自説を展開し、「あなたはこの転換社会に選ばれた最初の一人」「これからどんどん増えていく」と興奮気味です。
客商売をしている二人は、困惑しつつ、まだこのことは内密に、と頼みますが、自らの学説証明がしたくてたまらない教授は、勝手に新聞紙上で発表してしまいます。
しかしイレーヌの心配とは裏腹に「これで不妊のプレッシャーから解放されるわ!」「本当の男女平等よ」「男たちはどんな反応かしら?」と美容院の常連のマダムたちはこの新現象に大喜び。このあたり、〝セ・ラ・ヴィ“のお国柄、あるがままを前向きに受け止めていきます。イレーネはじめマダムたちのファッションや、美容院のインテリアがとってもカラフルでおしゃれで、この「井戸端会議」ならぬ「美容院会議」シーンでは、なぜか彼女たちと一緒に男性の妊娠にわくわくしてしまいます。
そして、これから〝娠夫”が増えていくという発表に商機を見出したファッションメーカーが、“男性の母性的父性”をテーマに男性マタニティウェアの独占モデル契約をマルコに申し入れてきます。町中にマルコのマタニティ服姿のポスターが張られ、一躍時の人となった男性妊娠第一号のマルコはテレビや雑誌の取材にひっぱりだこ。イレーヌもともにテレビ討論会で「共働きだから、二人目を男が生んでくれて良かった」「マルコは妊娠してずっと優しくなった。女の気持ちを理解できるようになったんです」と語り、マルコは「妊娠して朝の一服がイヤになった」と言い、MCが「禁煙したいなら妊娠ですね」とコメント。新しい男性用のピルが必要だとか、妊娠による男性の職業の制限や、人口が倍になるから託児所が必要になると国会で議論されたり、「ニューズウィーク」「ル・モンド」「プレイボーイ」「エル」など実在の新聞や雑誌名が飛び交い、おふざけと社会問題が一緒に語られるのがフランスらしいエスプリで、世界中で妊娠の徴候が見られる男性の姿を描写していくあたりでは、くすっと笑いながらも「本当にこうなったらいいのにー」と思えてきます。
結局、マルコの妊娠はただの肥満だったというオチで、世界中の男性が妊娠?と思われた現象も単なる想像妊娠だったとか。あれほど世界中を巻き込んだのに「あっさり収束できるのー?」と突っ込みたくなりますが、これまた〝セ・ラ・ヴィ“というエンディングなのでしょう。
ファンタジーとはいえ、「男性と女性の役割分担」なんて堅苦しく考えないで「家事も育児も出産も!男がしてもいいじゃない」と気楽に考えさせてくれるおシャレな映画です。


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