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『タリーと私の秘密の時間』(2018年アメリカ映画)

Tully


3人の子育てに奮闘し悩むマーロのもとにやって来たシッター タリーは、

その完璧サポートでマーロの心を解きほぐしていくが、、、。



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アカデミー賞女優シャーリーズ・セロンが演じる主人公マーロは、いまにもはちきれんばかりのお腹に3人目の子供を妊娠中。美人女優のシャーリーズ・セロンは『マッドマックス怒りのデスロード』の女戦士役やディオールのジャドールのCMでおなじみですが、が20キロ以上増量したというその冒頭シーンにまずびっくり!子育ても家事も仕事も完璧を目指して頑張ってきた彼女だけれど、さすがに3人目となると今まで通りには行かない。行動に落ち着きのない長男は、学校で転校を勧められその対応だけでも頭が痛い。もちろん、赤ちゃんの誕生は何人目でも感動的。そして新生児のお世話もまた、何人目でも大変。授乳し、おむつ替え、一瞬眠れても泣き声で目が覚め、授乳し、おむつ替え、朝が来たら朝食作り、子どもを学校へ車で送り出し、搾乳し、赤ちゃんをあやしつつ洗濯してーーーエンドレスかと思う毎日のルーティンにリラックスタイムはない。でも、自分でやるしかない。この描写がものすごくリアルで、巧いので「そうなのよ。大変だけど休む訳にはいかないのよね」とすっかりこの主人公に共感してしまいます。ちなみにこの間、夫は「行ってきます」のキスするのと帰ってきたとき「冷凍ピザか」と言うくらい、寝る前のテレビゲームが日課で赤ちゃんを抱っこしているシーンはありません!(一応彼の名誉のため、子供の宿題を見たりお弁当作りは手伝ってくれている、ようです)

そんなマーロ、ついに夜間のベビーシッターに頼ることにします。臨月の時に兄がプレゼントとしてシッターを、と申し入れてくれるのですが、子どもを他人に見てもらうことに抵抗を感じ一度は断っていました。なにしろ、マーロは「子どものパーティを計画したり、カップケーキを作ったりしないと“良いママ”じゃない」と思っているほど理想のママ像に厳しかったのですから。

そして、夫も子どもも寝てしまった後にやってきたのがタリーと名乗るべビーシッター、ラフなファッションで20代半ばに見えるスリム美人。赤ちゃんの世話だけでなく「人を頼るのに慣れていない」というマーロの心もほぐしていきます。翌日「久しぶりに熟睡したわ」というマーロの顔はどこかすっきりしています。授乳しながらとりとめもなく、夫への想いや独身時代の話をタリーと交わす、夜中のそんなゆったりとした時間が、タリーとのきずなを深め、次第に心の余裕を取り戻していくマーロ。夕食にチキンを焼き、身なりもこざっぱりとして長男の転校にも落ち着いて対処、二人の子どもたちと子ども部屋で遊んだり、ランニングもメイクも再開!

しかし、この映画は、そんな風に、産後ママをサポートする存在が、やること山積で不安定なママを救ってくれ、家族は幸せになりました。という単純なストーリーではありません。だって、それじゃあ、夫はマーロがワンオペでやっていた苦労も孤独感も知らないままになっちゃいますからね。

自分のことをほとんど話さないタリーとはいったい誰なのか?なぜマーロの心にこんなにもフィットして彼女をリラックスさせてくれるのか。

そこにこの映画が一筋縄ではいかない仕掛けがあります。

コミカルでハートウォーミングな語り口ながら、一人で背負わないこと、周りの人を頼ること、理想像はあくまでも理想として掲げるのみで、など頑張りすぎているママへの大切な人生訓が隠されてます。そして、その教訓が心にしみるのは冒頭でお伝えしたように、タリーの日常の描写が細部までリアルだからこそ。特に子どもたちと接するタリーのまなざしは時に癇癪を起す息子にイライラしたりもするのですが、常に愛情にあふれていて、だからこそ子育てを苦痛に感じてしまう自分を責めてしまいそんな想いを封じこめようとする、その「無理している感」はさすがのオスカー女優の演技で説得力があります。実は主演女優もオスカー受賞者ですが、脚本はディアブロ・コーディという女性でこちらもまたオスカー受賞者です。彼女は『JUNO/ジュノ』という十代の女の子の妊娠と里親探しというシリアスになりがちなドラマを軽妙なタッチに描いて、このハリウッド脚本家デビュー作品でいきなりオスカーを受賞しました。そして、『JUNO/ジュノ』の監督はジェイソン・ライトマン。彼はこの『タリーと私の秘密の時間』の監督でもあります。妊娠、出産、子育てというテーマは、ジェイソン・ライトマン監督、ディアブロ・コーディ脚本のコンビにとって、描かずにはいられない奥が深く魅力的なテーマであるということでしょう。






 
 
 

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